
ステーキングは、暗号資産を担保として差し出してネットワークの運営に参加し、その仕事の対価として報酬を受け取る仕組みです。
仕事の中身は、新しいブロックを提案したり、ほかの参加者が出したブロックに「正しい」と投票したりすることです。
これらは、ネットワークにつながったコンピューターの上で動くソフトが自動で行います。
ここでいう投票は、ブロックが正しいかを確かめて署名する作業のことで、取引所などに預けた人が自分で提案や投票をすることはありません。
この仕組みは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)という方式を使う暗号資産にあります。
この記事では、編集部が規約を確かめた国内の取引所のステーキングサービスのすべてで対象になっていたイーサリアム(ETH)を例に説明します。
ほかの暗号資産では報酬の出どころや条件が違うことがあり、主な違いは最後の技術補足にまとめています。
報酬は、銀行の利息のように誰かが約束して払うものではありません。
ETHの場合は、ルールで決まった新しいETHの発行と、取引を送った人が払う手数料の一部などから出ています。
2026年10月7日のETHの記録から計算すると、新しい発行の分だけで年約2.5%(全員が常に正しく参加したときのモデル値)です。
取引所の「ステーキング」は、取引所が規約で決めた条件で利用者に報酬を付けるサービスです。
取引所自身や委託先が、ネットワークの仕事をするコンピューターを動かしている場合もあります。
ネットワークの報酬とどう結びついているか、何を差し引くか、損失を誰が負うか、いつ解約できるかは、事業者ごとに規約で決まっています。
預金の利息とのいちばんの違いは、円での価値が守られないことです。
報酬で枚数が増えても、ETHの値段が下がれば、円で数えた額は減ることがあります。
ステーキングの話を読む前に、2つのことを分けておくと迷いにくくなります。
1つめは、預けた暗号資産を誰が保管しているかです。
自分の鍵で持つ場合、スマートコントラクトが預かる場合、取引所などの事業者が預かる場合があります。
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で自動で動くプログラムです。
2つめは、ネットワークの仕事をする参加者(バリデーター)を誰が動かしているかです。
自分で動かす場合と、ノード運営者と呼ばれる専門の事業者が動かす場合があります。
よく聞く形を、この2つで見ると次のようになります。
自分で動かすステーキングは、保管もバリデーターを動かすのも自分です。
委任やプールは、バリデーターを動かすのをノード運営者に任せる形です。
リキッドステーキングは、ETHを預けると、その代わりに「預けた証明」にあたるトークンを受け取る形です。
預けたETHはスマートコントラクトが預かり、バリデーターを動かすのはノード運営者です。
受け取ったトークンは、売買できる場や対応するサービスがあれば、預けている間も売ったり別のサービスで使ったりできます。
このため「リキッド(流動的)」と呼ばれます。
取引所のステーキングは、保管は取引所です。
バリデーターを取引所自身が動かすことも、外部の事業者に任せることもあり、どちらなのかが規約に書かれていないこともあります。
これらの形は、はっきり分かれているわけではなく、重なることがあります。
どの形でも「誰が保管するか」「誰が動かすか」「何を受け取る権利があるか」「いつ出せるか」を、使う人が自分で確かめておく必要があります。
報酬の出どころは、暗号資産やしくみによって違います。
ここではETHを例に、出どころを3つに分けて説明します。
1つめは、ネットワークのルールで新しく発行されるETHです。
きちんと投票したバリデーターに、決まった計算で配られます。
2つめは、優先手数料です。
ETHを送る人は、手数料に「早く処理してほしい」という分を上乗せして払うことがあります。
この上乗せ分が、ブロックを提案したバリデーターの受取先に入ります。
手数料のうち基本手数料と呼ばれる部分は、焼却されて誰の手にも入りません(くわしくはガス代の記事)。
3つめは、MEVと呼ばれる、取引の並べ方から生まれる価値です。
ブロックを組み立てる業者などからの支払いとして、提案者の受取先に入ることがあり、量は日によって大きく変わります。
たとえるなら、①は決まった額の給料、②はチップ、③は臨時収入です。
ただし、①も「決まった額」なのは計算のしかたで、受け取る額は参加している人の量で変わります(次の節)。
取引所のサービスを使う場合、利用者に付く報酬の額、ネットワークの報酬との結びつき、差し引くものは、その取引所の規約で決まります。
ビットコイン(BTC)は、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)という別の方式を使っています。
そのため、ネットワークの仕組みとしてのステーキングはありません(仕組みはビットコインの記事)。
一定ではありません。
ETHの新しい発行の分は、ステーキングされているETHが増えるほど、1枚あたりの率が下がるようにルールで決まっています。
預けられたETHが2倍になっても、全体で新しく発行されるETHは約1.4倍にしか増えないためです。
2026年10月7日22時17分(日本時間)の確定済みの記録では、ステーキングされていたETHは約4,374万ETHでした。
ここでいう量は、正確には「アクティブなバリデーターの有効残高の合計」で、報酬の式に入る値です。
ここからルールの式で計算すると、新しい発行の分の年率は約2.51%です。
同じ式で計算すると、預けられている量が2,000万ETHなら約3.7%、6,000万ETHなら約2.2%、1億ETHなら約1.7%になります。
この数字は、全員が常に正しく参加したときの理想の値で、実際に誰かが受け取った率ではありません。
実際には、参加しそこなった分だけ少なくなり、優先手数料やMEVの分だけ多くなります。
優先手数料とMEVは、取引の混み具合で日々変わります。
取引所が画面に出している年率は、この数字とは別のものです。
国内の取引所のステーキングサービス6つの説明を、2026年10月に読みました。
表示している年率は、手数料を引く前の事業者の実績のところと、利用者が受け取る率のところがありました。
過去1か月の実績を載せるところもあれば、過去の実績をもとにした試算を示すところもあります。
同じ「年率」という言葉でも、何を含み、何を引いた数字かは、使う取引所の規約で確かめてください。
ステーキングで失う可能性があるものを、起きやすさや影響が分かりやすい順に並べます。
1. 値下がりです。
報酬で枚数が増えても、ETHそのものの値段が下がれば、円で数えた額は減ります。
たとえば年2.5%分の報酬を受け取っても、ETHの値段が1年で20%下がれば、円で見ると損になります。
2. すぐに売れない・出せない期間です(参加のしかたで大きく違います)。
取引所のステーキングには、ステーキング中でもいつでも売ったり出金したりできるとするものがあります。
編集部が確かめた国内の6つのサービスのうち3つは、そう説明していました(残りの3つは、規約に日数の記載がありませんでした)。
ただし、どの分がいつ報酬の対象になるかなどの扱いは、使っている取引所の規約で確かめてください。
一方、ETHを自分でステーキングしている場合は、やめると決めてもすぐには引き出せません。
まず、やめる人の列に並びます。
列を出てから約27時間たつと出金できる状態になり、その後、全バリデーターを順に回る自動の送金処理で自分の番が来たときに送られます。
列が混んでいるほど待ち時間は長くなり、その間に値段が動いても売れません。
出金先のアドレスを設定していない古い形式のバリデーターは、先に設定が必要です。
リキッドステーキングの場合の出し方は、6.で説明します。
3. 率や条件の変更・終了です。
ネットワーク側の率は、預けられている量で変わります。
事業者の配る割合やサービスそのものも、規約に沿って変わったり終わったりすることがあります。
4. バリデーターの失敗による損失です。
どんな失敗でどれだけ減るかは、ネットワークごとに違い、こうした仕組みがない暗号資産もあります。
ETHでは、停止や通信の不具合で投票しそこなうと、その分の報酬が入らず、小さなペナルティで残高が少し減ります。
ネットワークが正常に動いているときは、この損は小さく抑えられています。
ただし、非常時は別です。
ステーキングされているETHの3分の1を超える分のバリデーターが止まると、ネットワークは記録を確定できなくなります。
そのときは、止まっている側の損失が大きくなるように設計されています。
これとは別に、同じ番に2つのブロックを出すなど、決まった違反をするとスラッシングと呼ばれる処分を受けます。
スラッシングでは、担保の一部が没収され、そのバリデーターは強制的にやめさせられます。
停止しただけではスラッシングの対象にはなりません。
取引所などのサービスで、こうした損失を事業者が補うか、利用者が負うかは規約しだいです。
5. 事業者の事故や破綻です。
取引所に預けた分は、出金の停止や不正な流出、破綻の影響を受けることがあります。
国内の取引所は、利用者の暗号資産を自社の財産と区別して管理するよう、法律で義務づけられています。
ただ、それで全額が戻ると保証されるわけではありません(取引所に預けた分の守られ方)。
6. リキッドステーキング特有のリスクです。
リキッドステーキングを使う場合は、預け先のスマートコントラクトに不具合があったり、運営側の決定で手数料や仕組みが変わったりすることがあります。
また、受け取ったトークンの市場での値段が、裏付けのETHの価値を下回ることがあります。
ETHに戻す手続きが混んでいてすぐに出たいときは、そのトークンを安く売るしかない場合もあります。
7. 税金だけが先にかかることです。
個人が報酬として新しく暗号資産を受け取ると、その時点の時価が収入になります。
受け取った後に値段が下がっても、すでに計上した収入は自動では減りません(次の「税金」の節)。
なお、ステーキングをしない場合、ネットワーク全体のETHが増える分だけ、自分の持つETHの割合は相対的に小さくなっていきます。
これは全体に占める割合の話で、円での価値が同じだけ減るという意味ではありません。
取引所のステーキングは、ネットワークのルールに加えて、その取引所の規約で中身が決まります。
前の節で触れた国内の6つのサービスを読み比べると、同じ「ステーキング」でも、次の点が事業者ごとに違いました。
「手数料無料」と書かれていても、利用者に配るのは事業者が受け取った報酬の7割〜7割5分程度、という形もありました。
受け取らない設定にしても、預けた分はステーキングに使われる、と書くところもあります。
その取引所が国の登録を受けているかは、金融庁が公開している登録業者の一覧に載っているかで分かります。
ただし金融庁は、登録を受けていることが信用性を担保するものではない、とも説明しています。
「ステーキング」とよく並べて案内されるレンディング(貸暗号資産)は、別の仕組みです。
レンディングは、取引所に暗号資産を貸し、取引所から決まった利用料を受け取る契約です。
ネットワークの仕事の報酬ではないので、ステーキングのないビットコインでも提供されています。
ある国内の取引所の説明書では、貸した暗号資産は分別管理の対象外とされています。
取引所が破綻したときに優先して返してもらう権利もなく、原則として途中で解約できない、とも書かれています。
「BTCでも報酬が出る」とうたうサービスを見たら、それがどんな契約なのかを規約で確かめるのが確実です。
ここでは、個人が、新しく暗号資産を報酬として受け取る一般的なステーキングの場合を説明します。
国税庁の暗号資産等に関するFAQ(令和7年12月最終改訂)によると、ステーキングで暗号資産を受け取ったときは、その時点の時価を収入に入れます。
この収入は、税金の計算では「総収入金額」と呼ばれます。
ステーキングにかかった費用は、必要経費として差し引けます。
受け取った暗号資産を後で売るときは、受け取ったときの時価が、その分の取得価額(買った値段にあたるもの)になります。
そのため、同じ額に2回税金がかかるわけではありません。
たとえば、受け取ったときの時価が5,000円の報酬は、まず5,000円が収入になります。
その分を後で6,000円で売れば、売ったときの所得は差額の1,000円です。
反対に3,000円まで値下がりしてから売っても、受け取ったときに計上した5,000円は自動では減りません。
実際の取得価額は、同じ暗号資産をまとめて、総平均法か移動平均法で計算します。
そのため、例のように1回分ずつきれいに分かれるわけではありません。
方法を選んで届け出なければ、個人は総平均法になります。
リキッドステーキング、報酬を自動で預け直す形、報酬がトークンの値上がりとして反映される形は、国税庁のFAQに個別の説明がありません。
これらや、事業として行う場合・法人の場合は扱いが変わることがあるので、税務署や税理士に確かめてください。
この節では、本文で使った数字や条件の根拠を、イーサリアムの仕様のコードとチェーンから読んだ値で示します。
報酬やペナルティの計算は、イーサリアムの開発者が公開している合意のルールの仕様書(consensus-specs)で確かめました。
2026年10月7日時点の最新版(コミットe03ef49)です。
2026年10月時点の本番は、2025年12月に始まったFulu(Fusaka)という版で、報酬の式は2021年のAltairという版から変わっていません。
新しい発行の分の報酬は、「基準報酬」から決まります。
1ETHあたりの基準報酬は、10億Gwei×64を、アクティブなバリデーターの有効残高の合計(Gwei)の平方根で割った値です(Gweiは10億分の1ETH)。
基準報酬は、投票(3種類)・同期委員会・ブロックの提案に、決まった重みで割り振られます(重みの合計が64分の64)。
全員が常に正しく参加すると、平均して、1ETHあたり1エポック(約6.4分)に基準報酬と同じ額を受け取る計算になります(提案と同期委員会の報酬は、選ばれたときにだけ入るため)。
2026年10月7日の記録では、有効残高の合計が43,743,741ETHで、基準報酬は306Gweiでした。
1年は82,181.25エポックなので、306Gwei×82,181.25で、年率は約2.51%です(受け取った報酬を預け直さない単利)。
実際の参加率は、ノードの計算から約99.2%でした。
参加率が下がると、投票の報酬はそれに比例して下がります。
有効残高の合計は、スロット15,379,584(エポック480,612の先頭・2026年10月7日22時17分11秒 日本時間)の確定済みの記録から取りました。
ChainSafe社が運営するLodestarというソフトの公開ノードから、アクティブなバリデーター859,279件を全部読み、有効残高を足しています。
照合には、Allnodes社のpublicnodeというサービスが公開している、Lighthouseというソフトのノードを使いました。
このノードはバリデーターの一覧を返さないため、代わりに、それぞれのノードが仕様どおりに計算した「理想の報酬」を比べました。
32ETHのバリデーターの理想の投票報酬は、Lighthouseが8,196Gwei、Lodestarが8,198Gweiで、差は丸めの範囲でした。
どちらも、基準報酬306Gweiと参加率約99.2%から計算した値と合っています。
ethereum.orgのステーキングのページが表示している年率(2.5%)とも、大きな食い違いはありませんでした。
測定に使った計算の手順と結果は、記録として保存しています。
バリデーターを始めるには32ETHが必要です。
2025年5月のElectra(Pectra)という版から、「複利型」のバリデーターができました。
報酬を自動で預け直せる型で、1つで2,048ETHまで有効残高として持てます。
これはバリデーター1つが持てる量の上限で、取引所などに預けられる量の上限ではありません。
従来型のバリデーターは、有効残高の上限が32ETHのままです。
ブロックを提案する役は、有効残高に比例した確率でランダムに選ばれ、保有期間の長さは使われません。
測定した時点のアクティブなバリデーター859,279件のうち、複利型は23,493件でした。
投票のうち2種類(source・target)を逃すと、受け取れたはずの報酬と同じ額がペナルティになります。
ネットワークは、ステーキングされているETHの量の3分の2以上の投票が集まると、記録を確定します。
確定が4エポックを超えて止まると「非活動リーク」という状態になり、投票しないバリデーターの残高が、止まっている時間が長いほど大きく減っていきます。
止まっている側の残高を減らし、参加している側が再び3分の2以上を占めて、確定を再開できるようにするための仕組みです。
スラッシングの対象は、同じスロットに2つのブロックを提案すること、同じ番に内容の違う2つの投票をすること、前の投票を包み込むような投票をすることです。
スラッシングを受けると、32ETHのバリデーターで0.0078125ETHがすぐに差し引かれ、強制的に退出させられます。
約36日後まで引き出せず、その中間(約18日目)に、同じ時期にスラッシングを受けた量に応じた追加の減額があります。
ethereum.orgの説明ページには、この減額を「最大1ETH」とする古い記述が残っているため、数字は仕様のコードで確かめました。
バリデーターをやめるときは、1エポックあたりに出られるETHの量に上限があり、その範囲で順番に退出します。
退出した後、さらに256エポック(約27時間)たつと、全額を出金できる状態になります。
実際の送金は、全バリデーターを順に回る自動の処理(sweep)で、自分の番が来たときに行われるので、さらに待つことがあります。
出金先のアドレス(withdrawal credentials)が0x00の古い形式のままだと出金できず、先に0x01へ変える必要があります。
複利型(0x02)にしたい場合は、0x01に変えた後で切り替えます。
預けたまま報酬だけを引き出す仕組みもあり、従来型では32ETHを超えた分、複利型では2,048ETHを超えた分が自動で引き出されます。
ethereum.orgは、プールやステーキングのトークンを使っている場合、引き出しの扱いはサービスごとに違うので提供元に確かめるよう案内しています。
ステーキングの条件は、暗号資産ごとに違います。
カルダノ(ADA)の公式の説明では、委任したADAはウォレットに残ったまま動かせ、ロックもスラッシングもないとされています。
ソラナ(SOL)の公式の説明では、プロトコルとしてのスラッシングは現在実装されていないとされています(2026年10月に確認)。
ポルカドット(DOT)の公式の説明では、ステーキングをやめてから引き出せるまでの期間が28日とされています(2026年10月に確認)。
委任した側もスラッシングの対象になります。
このように、ETHで説明した待ち時間やスラッシングの条件は、そのまま他の暗号資産には当てはまりません。
国税庁のFAQは1-7(ステーキングなどで取得した場合)・1-5(取得価額)・1-1(売却)を読みました。
預金保険の範囲は金融庁の説明で確かめました。
取引所の条件は、国内の取引所のステーキングサービス6つの説明・規約(2026年10月時点。運営会社は5社で、うち1社が2つのサービスを運営)を読み、社名の比較はしていません。
リキッドステーキングのリスクはethereum.orgのステーキングプールのページ、オフラインだけではスラッシングされないことはソロステーキングのページで確かめました。
本記事は暗号資産の仕組みに関する情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の購入・売却やステーキングサービスの利用を推奨したり、投資を勧誘したりするものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本は保証されていません。ステーキングの報酬も保証されたものではありません。税金の扱いは個別の事情で変わるため、必要に応じて税務署や税理士に確認してください。投資の判断はご自身の責任で行ってください。記載内容は執筆時点で確認できた情報にもとづいており、その後の状況の変化を反映していない場合があります。
この記事は まず知る.com 編集部(運営:合同会社東洋DEX)が書いています。運営者と編集方針