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2026年5月に、当社(合同会社・役員1名・従業員なし)の本店を移転しました。
東京23区内から多摩地域へ、つまり法務局の管轄をまたぐ移転です。
司法書士にも税理士にも頼まず、登記から各機関への届出まですべて自社で対応しました。
結果から言うと、登記そのものは思ったより簡単でした。
大変だったのは、登記が終わったあとに残っていた手続きのほうです。
とくに、許認可を持っている会社は検索で出てくる手続き一覧では足りません。
この記事は、制度の解説ではなく1社の実記録です。
金額も期間も2026年時点のもので、制度は改正されます。
自社に何が必要かは、必ず公式の情報とご自身の状況で確認してください。
まず、いちばん知りたいであろうお金の話からいきます。
当社のケースで確定して出ていったのは、登録免許税と証明書代だけでした。
本店移転の登録免許税は、登記1箇所につき3万円です(国税庁 タックスアンサー No.7191)。
ここで効いてくるのが「管轄内か、管轄外か」の違いです。
別の法務局の管轄区域へ移転した場合は、旧所在地と新所在地の両方で登記をすることになります(会社法916条)。
つまり3万円が2件分で、6万円になります。
同じ法務局の管轄内での移転なら3万円で済むので、移転先を検討する段階で管轄を調べておくと、この差は事前に読めます。
当社は管轄をまたいだので6万円でした。
※表は横にスクロールできます
| 項目 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|
| 登録免許税(管轄外) | 60,000円 | 3万円×2件。管轄内なら30,000円 |
| 登記情報(PDF) | 330円 | 登記情報提供サービス。2026年4月1日〜の料金 |
| 登記事項証明書(紙) | 490〜600円 | オンライン請求・窓口受取490円/郵送520円/窓口請求600円 |
| 士業への報酬 | 0円 | 依頼しなかったため |
証明書は、提出先が電子データで受け付けてくれるなら安いほうで足ります。
年金事務所への添付で登記簿が必要だったので、PDFで取得したものを画像に変換して添付しました。
「自分でやるといくら浮くのか」がいちばん知りたいところだと思います。
ただ、見積もりを1件も取っていないので、相場をここに書くと自分で確かめていない数字を載せることになります。
なので書けるのは、自分でやった側の実数だけです。
代わりに、判断のときに知っておくと役に立つことを1つだけ挙げます。
登録免許税は、誰が手続きしても同じ金額がかかる税金です。
自分でやって浮くのは士業の報酬部分だけで、6万円のほうは浮きません。
見積もりを見るときは、総額ではなく「報酬いくら+実費いくら」の内訳で比べると、自分でやった場合との差が正確に出ます。
お金より読みにくいのが時間のほうです。
当社の場合、移転先を決めてから旧オフィスの解約が終わるまでで、カレンダー上は約6.5週間かかりました。
実際に手を動かした時間は通しで計測していないので、記録が残っている範囲で書きます。
6.5週間のうち、大きな塊は法務局の審査待ちです。
申請から完了まで、当社のときは2週間ほどかかりました。
この期間は自分では縮められませんし、やることもありません。
完了予定日は各法務局のサイトで公表されているので、申請前に見ておくと全体のスケジュールが立てられます。
そして重要なのは、登記が完了しないと次の手続きに進めないことです。
後述する各機関への届出は、登記事項証明書や登記後の情報を求めてくるものが多いからです。
つまり移転日から逆算するのではなく、「登記完了+2週間」からさらに各届出の期限が始まる、というつもりでいるほうが安全です。
記録に残っているのは、登記完了後の届出にかかった時間です。
税務署・都道府県・市区町村・年金事務所・特許庁の5か所に出した分で、合計2〜3時間でした。
後述する総務省への届出は約30分、GビズIDの法人情報の更新にいたっては1分です。
つまり書類を作る作業そのものは、1件あたり数十分で終わる程度のものでした。
時間を取られたのは、その手前の「調べる」部分です。
どの機関に何を出すのか、様式はどれか、管轄はどこか、電子申請はどのシステムか。
これを1つずつ確かめる作業が続き、体感では書類作成の何倍もかかりました。
ここは初回だけ重い種類の時間なので、調べた内容を手順として残しておけば、次回は大幅に短くなります。
ここまでの数字を踏まえて、判断の目安を書きます。
ただし「自分でやるべき」と勧めたいわけではありません。
当社のケースが比較的やりやすかった理由は、会社の構成が単純だったからです。
役員が1名で、従業員がいませんでした。
役員が複数いれば同意の手続きが増えますし、従業員がいれば労働保険関係の住所変更が追加になります。
また、移転日にある程度の余裕がありました。
登記の期限は原則として移転から2週間以内です(会社法915条1項、管轄外は916条)。
この2週間の中で「初めての手続きを調べながらやる」のはかなり厳しいので、移転日が決まった時点で申請の準備を始められるかどうかが分かれ目になります。
反対に、次のような場合は最初から専門家に相談したほうが早いと感じました。
移転日まで2週間を切っている場合です。
後述するとおり添付書類で1回補正になっており、初回の申請が一発で通る前提でスケジュールを組むのは危険です。
許認可を持っている場合も、登記以外の届出が連鎖するので、全体を把握している人に確認してもらう価値があります。
そして、本業が忙しい時期と重なっている場合です。
届出そのものは短くても、調べる時間まで含めると、まとまった作業日を確保する必要があります。
その時間で本業がどれだけ動くかを考えると、報酬を払って外に出すほうが合理的なケースは普通にあります。
ここからは時系列の記録です。
申請書の書き方そのものは法務局や登記申請サービスの解説が詳しいので、実際に詰まった箇所だけを書きます。
申請の前にまず確認したのが、定款に本店所在地がどう書かれているかでした。
定款に市区町村まで書かれている場合、別の市区町村へ移るなら定款の変更が必要になります。
同じ市区町村内での移転なら、定款はそのままで済みます。
当社は別の市へ移ったので、社員の同意を書面にする必要がありました。
社員が1名だけの合同会社であれば、この書面は1通にまとめられます。
ここは会社の状況で変わるところなので、自社の定款を開くところから始めるのが確実です。
つまずいたのはここです。
オンラインで登記申請をする場合、添付する書面は「電子署名を付けたデータ」で提出することになっています(商業登記規則102条2項)。
最初は、同意書のPDFに印影の画像を貼り付けて提出しました。
紙に押印したものをスキャンした状態と同じで、これでは電子署名にあたりません。
結果として補正の連絡が来て、電子署名を付け直して出し直すことになりました。
この電子署名には、マイナンバーカードの署名用電子証明書が使えます(同規則102条3項2号)。
紙の手続きの感覚のまま「押印すれば書類として成立する」と思っていると、ここで確実に1往復ぶんの日数を失います。
古い解説を読んでいると「管轄外の移転では新しい法務局に印鑑届書を出す」と書かれていることがあります。
これは2025年4月21日から不要になりました。
旧所在地の登記所が印鑑の記録を新所在地の登記所へ移送するようになったためです(法務省)。
ただし、印鑑カードは引き継がれません。
印鑑証明書が必要になるなら、登記が完了したあとに改めて交付を請求することになります。
当社も登記完了後に、新しい管轄の法務局で印鑑カードを取り直しました。
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。
本店移転の情報を検索すると、登記の話で終わっている記事が多いのですが、実際には登記の完了が後半戦の開始でした。
登記が完了してから提出した届出は、次のとおりです。
期限も提出先も機関ごとにバラバラで、しかも「移転前の管轄」に出すものが複数あるのが厄介でした。
※表は横にスクロールできます
| 提出先 | 書類 | 期限 | 出す先の管轄 |
|---|---|---|---|
| 税務署 | 異動届出書 | 異動後すみやかに | 異動前の納税地の所轄 |
| 税務署 | 給与支払事務所等の移転届出書 | 移転から1か月以内 | 移転前の所轄 |
| 都道府県・市区町村 | 異動届(地方税) | 自治体による | 旧・新の両方が絡む |
| 年金事務所 | 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届 | 事実発生から5日以内 | 変更前の所在地の管轄 |
| 特許庁 | 出願人の住所変更 | 期限なし | 商標などを持っている場合 |
| 総務省(総合通信局) | 氏名等の変更届出 | 遅滞なく | 電気通信事業の届出をしている場合 |
なお、労働保険(労災・雇用保険)については、当社は役員のみで従業員がいないため手続きが発生しませんでした。
従業員を雇っている会社は、ここに労働基準監督署とハローワーク(公共職業安定所)への届出が加わります。
求職者が仕事を探しに行く場所という印象が強いかもしれませんが、ハローワークは雇用保険の適用事業所を管理する窓口でもあります。
この2つには、ここまでの手続きと違う特徴が2つあります。
1つは提出先で、管轄をまたぐ移転の場合は新しい所在地を管轄する労働基準監督署とハローワークに出します。
旧所在地での手続きは不要とされていて、税務署や年金事務所が「変更前の管轄」だったのとちょうど逆です。
もう1つは順序で、労働基準監督署を先に済ませる必要があります。
労働保険番号が変わるため、まず監督署へ「労働保険名称・所在地等変更届」を出し、その控えを添えたうえで「雇用保険事業主事業所各種変更届」をハローワークに持ち込む、という流れになります(東京労働局)。
どちらも期限は、変更の日の翌日から起算して10日以内です。
この表で最初に驚いたのが、年金事務所の5日以内という期限でした。
管轄をまたぐ移転の場合の届書は「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」で、提出先は変更前の所在地を管轄する年金事務所です(日本年金機構)。
添付書類として法人の登記簿謄本のコピーが必要で、しかも提出日から90日以内に発行されたものと決まっています。
つまり登記が完了していないと添付書類が用意できないのに、期限の起算点は移転の事実のほうにある、という構造になっています。
添付書類がそろうのは登記完了後なので、実務上は登記が終わってからの提出になります。
5日という数字だけ見て慌てないよう、登記完了と提出のタイミングを最初から想定しておくと落ち着いて進められます。
これは事前にどこにも書いていなくて、通知書が届いて初めて知ったことです。
管轄外への移転で年金事務所が変わると、事業所整理記号と事業所番号が新しいものに振り直されます。
つまり移転前の番号を控えて使い回していると、その後の届出で古い番号を書いてしまうことになります。
当社の場合、処理が完了した通知書に「変更前の番号」と「変更後の番号」が並べて記載されていて、そこで初めて番号が変わったことを認識しました。
給与計算ソフトや届書作成用のプログラムに事業所情報を登録している場合は、この番号を更新しないと次の届出でつまずきます。
移転後に届く通知書は、開封して番号を確認するところまでやってください。
もう1つ、順番の問題でつまずいた点があります。
社会保険や総務省への届出はe-Govという電子申請のシステムから出したのですが、その入り口にGビズIDというアカウントを使いました。
GビズIDに登録されている法人名や所在地は、法人番号をもとにした登記情報が自動で入る仕組みになっていて、利用者が自由に書き換えることはできません(GビズID よくある質問)。
この更新を先にやっておかないと、電子申請の画面に申請者の住所として旧住所が出続けることになります。
更新を後回しにしたまま届出を出そうとすると、申請のたびにそこで手が止まります。
画面の名称や操作手順は変わることがあるので、登記が完了したらまずGビズID側の法人情報を最新にする、という順番だけ覚えておくと余計な混乱がありません。
前の章の表で、いちばん注意が必要なのは最後の行です。
許認可や事業の届出に伴う変更手続きは、検索して出てくる「移転でやること一覧」には基本的に載っていません。
ここでいう許認可とは、事業を始めるときに役所の許可・登録・届出が必要になる業種の、その資格のことです。
代表的なものを挙げると、次のようなものがあります。
※表は横にスクロールできます
| 事業 | 必要な許認可 | 窓口 |
|---|---|---|
| 建設業 | 建設業許可 | 都道府県・国土交通省 |
| 中古品の売買 | 古物商許可 | 警察署(公安委員会) |
| 飲食店 | 飲食店営業許可 | 保健所 |
| 不動産の仲介 | 宅地建物取引業免許 | 都道府県・国土交通省 |
| 通信サービスの提供 | 電気通信事業の届出 | 総務省(総合通信局) |
受託開発やコンサルティングのように、何も要らない事業も多くあります。
自社が該当するかどうかは、創業時に役所へ何か出したかどうかを思い出すのが手がかりになります。
税務署・年金事務所・銀行といった提出先は、どの会社にも共通します。
だから移転の手続きを解説した記事は、そこを中心に書かれています。
一方で、許認可や事業の届出は業種ごとに違います。
上の表のとおり、窓口も様式も事業によってまったく別物です。
汎用の一覧に書きようがないので、最初から載っていません。
つまりここだけは、記事のチェックリストを借りてくることができず、自社で確認するしかない部分です。
当社は自社サービスの関係で、移転の少し前に総務省へ電気通信事業の届出をしていました。
届出をした事業者は、届け出た事項に変更があったときは遅滞なく届け出る義務があります(電気通信事業法16条3項)。
本店の住所はまさにその届出事項なので、移転にあわせて変更の届出が必要でした。
届出を怠った場合は10万円以下の過料の対象になります(同法193条1号)。
提出そのものは電子申請で30分程度、手数料もなく、添付書類も不要でした。
手続き自体はまったく重くないので、存在さえ把握できていれば問題になりません。
やっかいなのは、自社の許認可は自分で取得したものなので、意識に上りにくいことです。
取得したときは全力で調べているぶん、その後は「知っているもの」として頭の中で片付いてしまいます。
そして許認可の変更手続きは、税務署や年金事務所と違って、向こうから期限の案内が届くわけでもありません。
誰も指摘してくれない領域なので、移転のたびに自分で確認する工程を挟む必要があります。
ここまでを踏まえて、次回の自分に向けて手順を残しました。
記事の一覧をそのまま使うのではなく、自社の一覧を自分で作るのが結論です。
やることは単純で、会社の住所を登録してある先を思いつく限り書き出します。
公的機関だけでなく、法人口座やクレジットカード、ドメインの登録情報、会計ソフト、各種SaaSの請求先まで含めます。
公的機関の届出に目が向きがちですが、実務では請求書の届け先やドメインの登録住所のほうが先に問題になることもあります。
書き出すときのコツは、支払いの記録をさかのぼることです。
会計ソフトで年間の支出を見ていくと、契約している先が漏れなく出てきます。
記憶だけを頼りに書き出すと、前の章で書いた「知っているつもり」の許認可が抜けやすくなります。
許認可については、取得したときの通知書や受理通知を引っ張り出すのが確実です。
その書類には、たいてい「変更があったときの届出」について書かれています。
当社の場合も、届出のときに受け取っていた配布文書に、変更届出が必要になるケースの一覧が載っていました。
つまり調べ直すまでもなく、答えは最初から手元にありました。
移転を決めたら、まず許認可関係のファイルを開いて、変更届出の条件を読み直してください。
30分で終わる作業なので、移転の準備に入った最初の日に済ませてしまうのがおすすめです。
最後に、旧オフィスの解約について1つだけ。
旧住所にはバーチャルオフィスを使っていたのですが、解約には条件がありました。
貸与されていた住所や電話番号が、他のサービスで使われたままになっていないこと、というものです。
つまりドメインの登録情報や会計ソフトのプロフィールを先に直さないと、解約の申し込みができません。
また、郵便物の転送についても確認しましたが、日本郵便に問い合わせたところシェアオフィスは転送届の対象外という回答でした。
郵便で届く書類を減らしてから解約するという段取りが必要になるので、解約は最後の工程として時間を見ておくのが安全です。
本店移転そのものは、時間さえ確保できれば自分でやれる手続きでした。
難しかったのは書類の書き方ではなく、自社に何の手続きが必要なのかを漏れなく把握することのほうです。
移転を決めたら、まずは住所を登録している先と、持っている許認可を書き出すところから始めてみてください。
なお、この記事は2026年に1社が経験した記録であり、制度や金額は改正されます。
実際に手続きをするときは、必ず各機関の最新の案内を確認してください。
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