
「大手銀行が国債をトークン化」「RWA が次のテーマ」といった見出しを、ニュースや SNS で見かけることが増えました。
RWA は英語の Real World Assets の頭文字です。
株や国債、不動産など、ブロックチェーンの外にある現実の資産を指します。
先に結論を書きます。
トークン化は、資産や、資産についての権利を、ブロックチェーンのような電子的な台帳の上で、トークンとして表す仕組みです。
ただし、「RWA」と名の付くトークンを買っても、国債や株そのものを持つことになるとは限りません。
買った人が何を請求できるかは、トークンの名前ではなく、発行の条件・法律・資産を保管する仕組みで決まります。
例えば、RWA 関連の銘柄として名前の挙がる ONDO は、公式の資料で確かめられる主な役割が、プロジェクトの決めごとへの投票です。
「RWA」と付いたものを見たら、買う前に「自分は何を持つことになり、誰に何を請求でき、どこで売れるのか」を確かめることが大切です。
「RWA」という言葉は、性質の違ういくつかのものに使われています。
1つは、国債のファンドや株、不動産の受益権などを、トークンの形で表した商品です。
もう1つは、トークン化の事業をしているプロジェクトが出している暗号資産です。
暗号資産のニュースやランキングでは、後者も「RWA銘柄」とまとめて呼ばれることがあります。
どちらも「RWA」と呼ばれますが、持つと得られる権利は大きく違います。
さらに、同じ「トークン化した株」でも、株そのものを持つ設計もあれば、株の値動きに連動する約束を持つ設計もあります。
ですから、名前ではなく、中身の権利を見る必要があります。
トークン化を理解する近道は、トークンそのものより、その裏で誰が何を約束しているかを見ることです。
いまの日本の上場株も、紙の券ではなく、証券会社などの口座の記録で、誰が何株持っているかが管理されています。
この仕組みを振替制度といいます。
トークン化は、こうした権利の記録を、ブロックチェーンのような台帳の上で、トークンとして表すやり方の1つです。
金融庁の研究会の資料も、トークン化を「現実世界の財産をブロックチェーン上で生成されるトークンで表現すること」と整理しています。
トークン化した商品には、ふつう、トークンを持つ人のほかに、トークンを出す発行体と、裏付けの資産(原資産)を保管・管理する人がいます。
トークンを持つ人が実際に頼れるのは、「発行体などに対して、何を請求できるか」という約束です。
たとえるなら、トークンはクロークの引換券に近いものです。
引換券を持っていても、預けたコートを手に持っているわけではなく、持っているのは「返してもらう約束」です。
ただし、引換券と違って、トークンの約束の中身は商品ごとに違い、コートにあたる原資産そのものではなく、その値段分のお金で返す約束の商品もあります。
例えば国内の不動産のトークンでは、不動産そのものではなく、不動産を信託した「信託の受益権」をトークンで表す形が中心です。
金融庁の資料でも、国内のセキュリティトークンの発行は、受益証券発行信託という仕組みを使った不動産のトークンを中心に増えてきたとされています。
この形では、トークンを持つ人が持つのは不動産の所有権ではなく、信託から賃料などの分配を受ける受益者としての権利です。
図のように、ブロックチェーンにトークンがあることと、自分が原資産を持っていることは別の話です。
トークンが表しているのは、持つ人が発行体などに対して持つ権利で、その中身は商品ごとに、発行の条件で決まります。
同じ「トークン」でも、ビットコインには、発行体のように請求できる相手がいません。
ビットコインを持つ人が持っているのは、ブロックチェーンに記録されたビットコインそのものです。
一方、トークン化した資産は、チェーンの外にある資産や権利を表すので、外での約束が守られることが前提になります。
法定通貨で裏付けるタイプのステーブルコインも、発行体が資産を持ち、お金への払い戻し(償還)に応じることで成り立っています(ステーブルコインの仕組み)。
ですから、トークン化した資産では「誰が中身を保管し、トークンと権利をどう結びつけているか」が大切になります。
「RWA銘柄」と呼ばれるものを買ったときに何を持つかは、次の4つの権利が付いているかで確かめられます。
これは分類ではなく確認の項目で、1つの商品が2つ以上に当てはまることもあります。
ここでは、RWA の話題でよく名前が挙がる、Ondo に関連する2つのトークンを例に、この4つを当てはめます。
表のように、ONDO と Ondo Stocks は同じ Ondo の名前が付いていても、持つものがまったく違います。
ONDO は、トークン化の事業をしている Ondo に関わるプロジェクトの暗号資産です。
Ondo の公式資料で確かめられる、ONDO の主な役割は、プロジェクトの決めごとへの投票です。
資料では、ONDO を持つ人が、お金に関わる設定やプログラム(スマートコントラクト)の更新を投票で決めると説明されています。
投票の力は、持っている ONDO の量で決まります。
ONDO を持っても、Ondo 関連の国債の商品や株のトークンそのものを持つことにはならず、その償還や配当を受ける権利が生まれるわけでもありません。
米国のメディア Blockworks が公開情報からまとめた資料にも、ONDO は収益・配当・利回りへの権利を与えない、と書かれています。
ONDO の値段は、国債や株の値動きに連動するように作られたものではありません。
Ondo Stocks は、Ondo のグループが米国の株や上場投資信託(ETF)をもとに出しているトークンです。
公式の資料によると、トークンの価値は、株の値動きと、税を引いたあとの配当を再投資した分を合わせた「トータルリターン」に連動するように作られています。
配当はお金で届くのではなく、トークンの価値に組み込まれる形です。
発行しているのは、英領バージン諸島にある、発行のために作られた会社(SPV)です。
法的な形は仕組債(払う額が原資産の値動きで決まる債券)です。
裏付けの株は保管の会社に置かれ、トークンを持つ人は、発行体に償還を求める権利を持ちます。
さらに、独立した第三者の会社(Security Agent)が、トークンを持つ人のために、その株に対する第一順位の担保権を持っています(公式の説明)。
発行体が償還に応じられないなど、決められた場合には、この会社が担保の株を売り、代金をトークンを持つ人に分けるしくみです。
一方で、トークンを持つ人は株主としての議決権や情報を受け取る権利を持たない、と書かれています。
さらに重要事項には、Ondo Stocks は株そのものではなく、株を受け取る権利も与えない、と明記されています。
つまり、値動きは株に連動していても、持っているのは発行体との約束で、株主になるわけではありません。
米国の居住者は買えないなど、国や地域ごとの制限もあり、日本の居住者が使えるかは個別に確認が必要です。
Ondo Stocks の形は、トークン化した株の設計の1つにすぎません。
IMF(国際通貨基金)の2026年10月の報告書は、トークン化した株を、渡す権利によって3つの形に分けています。
1つ目は、株そのものとしてチェーンの上で発行され、持つ人が経済的な権利も議決権も持つ形です。
2つ目は、保管されている株への権利を表し、配当などが持つ人に渡る形です。
3つ目は、株を持つ会社などへの請求権を表し、値動きへの連動はあっても、株の法的な所有権は持たない形です。
同じ報告書によると、トークン化した株の発行で最大手の2社(Ondo と xStocks)は、3つ目の形を使っています。
同じ「トークン化した株」でも、どの形かで、持つ人の権利が変わります。
トークン化の利点としては、小口で持てる・決済が早くなる・時間外でも売買できる、の3つがよく挙げられます。
どれも、商品の設計と市場の仕組みが整えば可能になることがある、という話です。
値段の高い資産でも、トークンを細かく分ければ、少ない金額から持てるようにできます。
IMF の報告書が調べたトークン化した株の取引では、およそ8割が1株に満たない大きさでした。
ただし、どこまで小口にできるか、誰が買えるかは、商品の条件や法律で決まります。
いまの日本の株は、売買が成立した日から2営業日後に、お金と株の受け渡し(決済)が終わります。
これを T+2 といいます。
金融庁の研究会の資料は、お金の側と資産の側の両方がトークン化されると、決済にかかる期間を大きく縮めることにつながりうると整理しています。
ただし、これは目指す方向で、トークン化しただけで決済が即日になるわけではありません。
「24時間取引できる」と書かれていても、何が24時間なのかは商品によって違います。
トークンを送れる時間、発行や償還を受け付ける時間、売り買いできる時間、決済が終わる時間は、それぞれ別です。
例えば Ondo Stocks では、発行体から直接買う・償還する手続きは、原則として平日の24時間(週5日)です(公式の案内)。
週末にも扱われるのは、一部の銘柄だけです。
取引の区切りや、配当などの手続き、リスクの上限に達したときなどには、止まることもあります。
ほかの場所での売買は、それぞれの取引の場の仕組みや相手しだいです。
売りたいときに売れるか(流動性)は、トークン化しても自動では良くなりません。
IMF の報告書によると、2026年7月時点で、公開市場のトークン化した資産は約650億ドルでした(私募の市場・レポ取引・ステーブルコインを除く)。
トークン化した株は、そのうち約23億ドルと見積もられています。
報告書は、トークン化した株の市場は規模が小さいため、従来の株式市場より流動性が低く、値動きが大きく、取引の場がばらばらに分かれていると指摘しています。
値動きの大きさは、従来の市場で取引される株のおよそ1.5倍とされています。
日本には、個人が買えるトークン化の商品と、まだ金融機関どうしで試している段階のものがあります。
株や社債、信託の受益権などをトークンにしたものは、日本ではセキュリティトークン(ST)と呼ばれます。
2026年10月時点の金融商品取引法では、こうしたトークンの多くが有価証券として扱われます。
国内で個人向けに公募される代表的な ST は、取り扱う証券会社などの証券口座で買います。
暗号資産の取引所で売買する暗号資産とは、買う場所も、守るルールも別です。
ただし、商品ごとに権利の性質や取り扱う会社は違うので、買う前に個別に確かめる必要があります。
大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は、2023年12月25日に、ST の私設取引システム「START」での売買を始めました(関係各社の発表)。
私設取引システムは、証券取引所の外で、認可を受けて有価証券を売買する仕組みです。
START は、買った ST を売買できる場の1つです。
START では、不動産の ST や社債の ST が売買されています。
例えば2026年3月25日には、SBIホールディングスが個人向けに出した社債の ST について、売買が始まりました(同社の発表)。
ただし、どの銘柄を扱うか、取引の相手や注文の量、取引できる時間は銘柄ごとに違い、いつでも思った値段で売れるわけではありません。
「国債のトークン化」のニュースの多くは、個人に国債を売る話ではありません。
2026年10月22日には、Progmat が主催する金融機関などの検討会が、トークン化した国債についての中間整理を公表したと報じられました。
テーマは、トークン化した国債を使った、金融機関どうしの資金の貸し借り(レポ取引)です。
11月に実機での検証を始めることを目指し、2027年春に改めて中間整理を出す予定とされています。
個人がトークン化した国債を買えるようになるかは、決まっていません。
金融庁は2026年9月に「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を設け、9月30日に第1回を開きました。
10月20日には「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」も開かれました。
そこでは、セキュリティトークンや振替制度、決済期間の短縮などが論点として挙げられています。
どんな制度になるかは、まだ決まっていません。
「トークン化」や「RWA」をうたう商品を勧められたら、次の5つに答えられるかを見ると、中身が分かります。
説明を読んでもこの5つが分からない商品は、何を持つのかが分からないまま買うことになります。
「乗り遅れる」と急がせる勧誘や、高い利回りだけを強調する勧誘には、特に注意が必要です。
日本で暗号資産や有価証券を扱う業者は金融庁などへの登録が必要で、登録業者の一覧は金融庁のウェブサイトで確かめられます。
金融庁の研究会の資料(2026年10月20日)では、日本のセキュリティトークンが3つに整理されています。
1つ目は、株式・社債・投資信託などの有価証券をトークンで表したものです。
2つ目は電子記録移転権利で、信託の受益権や集団投資スキーム持分(ファンドの持分)などをトークンで表したものです(金融商品取引法第2条第3項)。
3つ目は適用除外電子記録移転権利で、買える人を機関投資家などに限り、移転に発行者の承諾が要るものなどです。
資料では、この3つが「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令第6条の4)としてまとめられています。
トークン化に使うブロックチェーンには、誰でも参加できるパブリックなものと、参加者を限ったものがあり、金融庁の資料でも両方が挙げられています。
有価証券のトークンは、商品によっては、本人確認を済ませた人や発行者が認めた相手にしか移せないように作られます。
一方、Ondo Stocks は一般的なトークンの規格(ERC-20)で作られ、ウォレットの間で送ることができると案内されています。
同じトークン化でも、どこまで自由に送れるかは商品によって違います。
海外では、米国債などに投資するファンドの持分をトークンにした商品が増えています。
MMF は、短期の国債などで運用する投資信託の一種です。
金融庁の資料によると、BlackRock のトークン化した MMF「BUIDL」は2024年3月に始まり、2026年8月31日時点の運用規模は約28億ドルです。
IMF の報告書によると、トークン化した MMF は、主に利回りの付く現金に近い担保として持たれています。
売買されるより、発行体との間で発行・償還されることが多いとされています。
ONDO と Ondo Stocks の説明は、Ondo の公式の資料(2026年10月26日に確認)によります。
市場の数字とトークン化した株の3つの形は、IMF「国際金融安定性報告書」2026年10月の第3章によります。
国内の制度と ST の整理は、金融庁「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」の2026年10月20日の事務局資料によります。
トークン化は、資産の持ち方や取引の仕方を変えうる仕組みです。
ただし、何を持つことになるのかは、「RWA」という名前ではなく、発行の条件で決まります。
次に「RWA」と付いたものを見かけたら、まず「自分は何を持つことになるのか」を、発行体の資料で確かめてみてください。
本記事は資産のトークン化(RWA)の仕組みと、トークン化をうたう商品を確かめるときの観点に関する情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産・セキュリティトークン・金融商品・取引所・サービスの利用や、購入・売却を推奨したり、投資を勧誘したりするものではありません。記事中の商品やプロジェクトは仕組みの例として挙げたもので、評価や推奨ではありません。商品の権利・提供される国や地域・取引の条件は発行体や取り扱う会社が定めており、変わることがあります。購入を検討する場合は、発行体の資料や目論見書などの最新の情報をご確認ください。暗号資産やセキュリティトークンは価格変動が大きく、元本は保証されていません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。記載内容は執筆時点(2026年10月)で確認できた情報にもとづいており、その後の状況の変化を反映していない場合があります。
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