
「ゆうちょ銀行がトークン化預金を始める」「銀行がステーブルコインを出す」といったニュースを見て、何が違うのか気になった人もいると思います。
先に結論を書きます。
トークン化預金は、銀行の預金を、ブロックチェーンなどの台帳の上で、ほかの人に送ったり支払いに使ったりできるようにしたものです。
銀行が預金として出すもので、新しい暗号資産ではないため、持っていて値上がりするものではありません。
一方、JPYCやUSDCのように電子決済手段として扱われるステーブルコインは、預金ではありません。
ステーブルコインとは、値段が1円や1ドルに近く保たれるように作られたデジタルの価値のことです。
日本銀行が出すデジタルのお金(CBDC)は、まだ発行されていません。
守られ方で大きく違うのは、銀行が破綻したときの預金保険です。
個人向けに始まっている北國銀行の「トチカ」は、利息の付かない「決済用預金」として出され、全額が守られる区分に入ります。
ゆうちょ銀行が検討しているトークン化預金も、決済用預金として出す想定です。
ただし、利息が付く預金なら、同じ銀行のほかの預金と合わせて元本1,000万円までの区分になります。
どちらに当たるかは、使う前にその銀行の説明で確かめる必要があります(確かめ方は「使う前に確かめる4つのこと」にまとめました)。
表のように、3つとも「デジタルのお金」と呼ばれますが、だれが出して、だれに対する約束なのかが違います。
トークン化預金は、銀行の預金を「トークン」というデジタルの単位にして扱うものです。
トークンとは、ブロックチェーンなどの台帳の上で、持ち主と数量が記録され、受け渡しできるデータのことです。
ふつうの預金も、いまは銀行のコンピューターの中で電子的に記録されています。
トークン化預金で変わるのは、預金を台帳の上で送ったり支払いに使ったりでき、それをプログラムの処理と組み合わせられることです。
例えば、株や社債をトークンにした「セキュリティトークン(ST)」を買うとき、代金を払うのと同時に、証券が買った人に移るようにできます。
証券と代金を同時に渡し合うこの決済は、DVP(Delivery Versus Payment)と呼ばれます。
2026年3月には、SBI新生銀行のトークン化預金を使って、STの代金をこの方法で決済する実証が行われました(SBI証券などの発表)。
プログラムで「条件がそろったら自動で渡す」ところは、自動販売機にたとえられます。
自動販売機は、決まった金額が入ったときにだけ商品を出します。
トークン化預金でも、決めた条件がそろったときにだけ、代金と証券が移るようにできます。
ただし、たとえと違って、一度の操作で終わるわけではありません。
2026年3月の実証では、STを仮に移し、代金を送る指図をDCPが照合してから、DCJPYとSTを同時に移しました。
また、だれでも受け渡しに加われるわけではありません。
国内のDCJPYでは、受け渡しできるのは、銀行が本人確認をした利用者どうしに限られています(DCPの説明)。
ニュースでは、同じ種類のものがいくつかの名前で呼ばれています。
「預金トークン」は、トークン化預金の別の呼び名です(ゆうちょ銀行の発表の注)。
北國銀行の「トチカ」は「預金型ステーブルコイン」と名乗っていますが、商品説明書には「『トチカ』は預金です。」と書かれています。
名前に「ステーブルコイン」と付いていても、銀行が預金として出していれば、この記事ではトークン化預金の側に入れています。
「DCJPY」は、銀行がトークン化預金を出すための仕組みと、そのお金の名前です。
仕組みを提供するのはDCP(ディーカレットDCP)ですが、DCJPYを出すのは、それぞれの銀行です。
ここでいうステーブルコインは、預金型を除き、電子決済手段として扱われるもの(JPYCやUSDCなど)を指します。
3つの違いは、預金として出しているか、だれに渡せるか、だれが出すかの3点に分けると見分けやすくなります。
ステーブルコインは、値段が1円や1ドルに近く保たれるように作られた、デジタルの価値です。
日本では、資金移動業者(銀行でなくても送金を扱えるよう、国の登録を受けた会社)や信託会社などが、電子決済手段として発行します。
USDCのように海外で出されたものは、国内では登録を受けた業者(電子決済手段等取引業者)が扱います。
JPYCは、資金移動業者のJPYC株式会社が出している円建てのステーブルコインで、日本円に払い戻せます。
ただし、電子決済手段なら必ず払い戻せるわけではありません。
例えば、JPYC株式会社が2021年から出していた「JPYC Prepaid」があります。
1枚を1円分として買い物などに使う、プリペイドカードと同じ種類の支払手段(前払式支払手段)で、新しく出すのは2025年に終わりました。
いまは電子決済手段として扱われていますが、現金への払い戻しは予定していない、とJPYCは案内しています。
銀行が関わるステーブルコインでも、預金として出すとは限りません。
3メガバンクの実証では、信託の仕組みを使って、預金ではない電子決済手段としてステーブルコインを出しました(くわしくはステーブルコインとは?1ドル・1円のまま保たれる仕組みと、戻せなくなるときを解説)。
金融庁の資料も、出すのが銀行かどうかではなく、銀行預金の決まりがかかるかどうかで、守られ方を分けて整理しています。
金融庁の長官の講演資料では、ステーブルコインは一般に、次々と人の手に渡っていくことを想定しているとされています。
これに対して、トークン化預金は、受け渡すときにも預金であることの制約がかかる、とされています。
DCJPYで受け渡しの相手が本人確認を済ませた利用者に限られるのも、この違いの表れです。
暗号資産の取引所や、ふだん使っているウォレット(暗号資産を保管したり送ったりするアプリなど)に送れるかどうかは、銀行やサービスごとに違います。
送る前に、銀行やサービスの公式の案内を見ておいてください。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)は、現金と同じく、日本銀行のような中央銀行が直接出すデジタルのお金です。
銀行の預金でも、会社が出すステーブルコインでもありません。
日本銀行は2023年からパイロット実験を続けていて、2026年6月にも進捗の報告書を出しています。
一方で、取り組み方針では「現時点でCBDCを発行する計画はない」としています(2020年10月)。
ニュースの「デジタル円」という言葉が日銀のCBDCを指すとは限らないので、だれが出すものかを確かめてから読むと混乱しません。
預金保険は、銀行が破綻したときに、預けたお金を守る制度です。
トークン化預金は預金なので対象になりますが、どこまで守られるかは預金の種類で変わります。
預金保険で守られる範囲は、預金の種類によって2つに分かれます(金融庁)。
当座預金や利息の付かない普通預金などの「決済用預金」は、全額が守られます。
定期預金や利息の付く普通預金などの「一般預金等」は、同じ銀行に預けた分を1人ごとに合計し、元本1,000万円と破綻した日までの利息などまでが守られます。
決済用預金に当たるのは、決済に使えること、いつでも払い戻しを頼めること、利息が付かないことの3つを満たす預金です(預金保険法51条の2)。
トチカは、商品説明書で「決済性預金として保護の対象」とされ、利息は付きません。
ゆうちょ銀行も、検討中のトークン化預金を決済用預金として出し、預金保険の対象とする想定だと発表しています(2025年9月)。
一方で、金融庁の長官の講演資料には、トークン化預金には利息を付けることができる、とも書かれています。
利息が付く預金は決済用預金の条件から外れるので、全額ではなく、ほかの預金と合わせて元本1,000万円までの区分で考えることになります。
どの区分に当たるかは、金融庁も、商品ごとに銀行の窓口などに問い合わせるよう案内しています。
預金保険は、銀行が破綻したときのための制度です。
システムの障害で送れなかった、だまされて送ってしまった、といった損を埋め合わせるものではありません。
こうした場合の扱いは、銀行の規約や補償の決まりによります。
同じアプリの中でも、トチカのポイント(トチツーカポイント)は、預金保険の対象外とされています。
「銀行が出すから安心」と考える前に、預金保険のどの区分か、それ以外の損はどう扱われるかを確かめておくことが大切です。
国内のトークン化預金のニュースには、個人が使えるもの、企業どうしの取引、実証、開始の予定が混ざっています。
段階で分けると、次のようになります。
個人が日常の支払いに使えるものとしては、北國銀行のトチカがあります。
トチカを使えるのは、提携する金融機関に預金口座を持ち、日本に住んでいる個人です(商品説明書・2026年3月時点)。
預金口座からアプリでチャージし、トチツーカの加盟店で1トチカ=1円として支払いに使えます。
預金口座に戻す(換金する)ときは、月の初回が無料で、2回目からは110トチカの手数料がかかります。
GMOあおぞらネット銀行のDCJPYは、2024年8月から、IIJが扱う環境価値(非化石証書など)の取引の決済に使われ始めました。
ゆうちょ銀行は、個人と法人の両方に向けて検討していて、まずはNFTやSTの取引に連動する決済から始める想定です。
2026年11月時点の発表は「2026年度中を目途」までで、開始の日付はこれからの発表で決まります。
銀行の間の実証に43社が加わったのは、トークン化預金を銀行の間で移す方法を確かめるためです。
参加者には、申請者や参加銀行のほか、オブザーバーとして加わる銀行も含まれ、43社のお客さんが使えるようになったという意味ではありません。
新しい「デジタルのお金」の案内を見たら、使う前に、次の4つを公式の説明で確かめてください。
どれも、値上がりを狙って持つものではなく、支払いや送金に使うためのものです。
それでも、損をすることはあります。
金融庁は、電子決済手段は国が価値を保証する法定通貨ではない、と注意しています。
価格が変動して損をする可能性があることも、同じ注意書きにあります(電子決済手段等取引業者登録一覧)。
払い戻しの条件や手数料、発行する会社や取り扱う会社の問題、サイバー攻撃のリスクも、銘柄やサービスごとに違います。
「銀行」「1円」という言葉だけで安心せず、だれの約束で、何に守られているかを見てから、使うかどうかを決めてください。
ここからは、法律の分類と仕組みの細部、海外の動きをまとめます。
本文の判断には、ここまでの内容で足ります。
資金決済法2条5項は、電子決済手段を4つに分けています。
1号は、代金の支払いのために不特定の人に使え、不特定の人と売り買いできる、通貨で表された財産的価値で、電子的に移せるものです。
2号は、1号のものと、不特定の人との間で交換できるものです。
3号は、特定信託受益権(信託の仕組みで出すもの)です。
4号は、1〜3号に準ずるものとして内閣府令で定めるものです。
金融庁の研究会の資料(2026年10月)は、事務ガイドラインの考え方として、次の2つを満たす銀行などのデジタルマネーは基本的に1号に当たらない、としています。
1つは本人確認を済ませた人にだけ移せること、もう1つは移すたびに発行者が関わることです。
そのため、トークン化預金がそのまま電子決済手段になるとは言えません。
一方、銀行が1号の電子決済手段を出す場合は、「発行について慎重な検討が必要」と整理されています(同じ資料)。
だれでも参加できるブロックチェーン(パーミッションレス型)を使うものが、これに当たります。
反対に、参加者を限るブロックチェーンは、許可型(パーミッションド型)と呼ばれます。
DCPの説明では、DCJPYのネットワークは、企業や個人が取引する「ビジネスゾーン」と、銀行がお金の機能を担う「フィナンシャルゾーン」の二層でできています。
複数の銀行と事業者が、1つの共通の基盤を使う形です。
預金の残高は銀行ごとにあるので、違う銀行の人どうしで送るには、銀行の間のお金の移動が要ります。
この銀行の間の決済もブロックチェーンの上で済ませる方法を、DCPとGMOあおぞらネット銀行などが確かめています。
金融庁の決済高度化プロジェクトの3件目として、2026年4月に採択された実証です。
主に確かめるのは2つの方式です。
1つは、1つの銀行が幹事行になり、利用者どうしの送金と、その幹事行の中での銀行の間の決済を同時に行う方式(TD幹事行方式)です。
もう1つは、銀行の間の決済にステーブルコインを使う方式(TD-SC連携方式)です。
あわせて、いまある決済システムにつなぐ方式も検討するとしています(DCPなどの発表・2026年8月)。
日本銀行も、銀行が日本銀行に預けているお金(日銀当座預金)をトークンにして使うサンドボックス(試験の場)のプロジェクトを行っています。
金融庁の研究会の資料(2026年10月)は、海外の大手銀行の動きを挙げています。
JPモルガンやシティは、参加者を限ったブロックチェーンでサービスを始めました。
JPモルガンは2025年11月、機関投資家向けに、だれでも参加できるブロックチェーンを使うサービスも始めました(同資料)。
国境をまたぐ送金でも、SWIFT(国際送金のネットワーク)が2026年7月、トークン化預金を使う実証を始めました。
参加するのは、主要国の大手銀行17行です(同資料)。
香港では2026年11月2日、スタンダードチャータード銀行が企業向けにトークン化預金のサービスを始めました。
香港金融管理局(HKMA)の基盤「EnsembleTX」を使い、銀行の間の決済は中央銀行のお金で行う、と同行は発表しています。
電子決済手段を売り買いしたり預かったりする業者は、電子決済手段等取引業者として、金融庁・財務局の登録を受ける必要があります。
2026年8月27日時点の登録は2社で、どちらもUSDC(アメリカのサークル社が出すドル建てのステーブルコイン)を扱っています(金融庁の登録一覧)。
株や国債などをトークンにする話は、RWA(トークン化)とは?「RWA銘柄」を買うと何を持つのか、買う前に確かめる5つにまとめています。
トークン化預金のニュースを見たら、まず「だれが出す、何のお金か」を確かめてください。
預金なのか、電子決済手段のステーブルコインなのか、まだ発行されていないCBDCなのかが分かれば、守られ方の違いも見えてきます。
本記事は、トークン化預金・ステーブルコイン・中央銀行デジタル通貨の仕組みと、使う前に確かめる観点に関する情報提供を目的としたものであり、特定の銀行・サービス・暗号資産・電子決済手段の利用や、購入・売却を推奨したり、投資を勧誘したりするものではありません。法律の解釈や、個別の商品が預金保険でどう扱われるかについての助言ではありません。個別の判断が必要な場合は、取引先の金融機関や弁護士などの専門家にご確認ください。記載内容は執筆時点(2026年11月)で確認できた情報にもとづいており、法令や制度、各社のサービス内容の変更により、その後の状況と異なる場合があります。
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